J.K.ローリング ハーバード大学卒業式
記念講演

 

J.K. Rowling's Commencement Address at Harvard University
Tercentenary Theatre, 5 June, 2008


   


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ハーバード大学特別講演
詳細
  • 2008年6月5日 ハーバード大学構内 Tercentenary Theatre
  • 講演タイトル:失敗の利点と想像力の重要性について(The Fringe Benefits of Failure, and the Importance of Imagination)


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    特別講演和訳
    失敗の利点と想像力の重要性について
    The Fringe Benefits of Failure, and the Importance of Imagination

    ファウスト学長、ハーバード・コーポレーション(Harvard Corporation)及び監督委員会(Board of Overseers)のメンバー、教職員、父兄諸氏、そして何よりも卒業生の皆さまには、先ず初めに“お礼”を申し上げます。

    といいますのも、ハーバード大学が無上の光栄をお与えくださったのみならず、この特別講演を思い、数週間にわたる恐怖と吐き気を経験したお陰で、私は減量できたからです。(会場拍手喝采)
    お互い満足のいく状況になったわけです! (喝采) 今ここで私がなすべきことは、深呼吸し、赤い(卒業式の)垂れ幕を見ながら(*1)、自分は世界最大のグリフィンドール生(*2)の集いにいると思い込むことです。(大きな拍手喝采)

    卒業式の特別スピーチをすることは、大きな責任が伴います。自身の卒業式を思い起こしてみますと、その時の講演者は、著名な英国人哲学者のメアリー・ワーノック(Mary Warnock)氏でした。 彼女のスピーチをじっくり考えてみることは、この原稿の執筆に殊のほか役立ちました。というのも、彼女の言葉を一言も思い出せないということが分かったからです。この心を解放する発見により、私は軽率にも皆さまに影響を与え、ビジネスや法律・政治の分野での前途有望なキャリアを捨てさせ、ゲイの魔法使いになるという目のくらむような喜びの道を選択させてしまうのではないか、といった恐怖心を全く抱かずに、この仕事に取り掛かることができました。

    お分かりですね?数年後、皆さまが(この日のことで)覚えているのがたとえ「ゲイの魔法使い」のジョークだけだとしても、私はまだメアリー・ワーノック女男爵より勝っているわけです。達成可能な目標、それが個人の向上における第一歩です。

    実際のところは、本日皆さまに何を話すべきか頭を悩ませました。自分が卒業した時に知りたかったことや、その時から今までの21年間で自分がどのような大切な教訓を学んだのか、自問自答してみました。

    ・・続きは後ほど訳します! こちらの事前英文原稿の和訳(実際の講演と一部異なっている箇所があります)

    *1:赤(クリムゾン)はハーバードのスクールカラー。
    *2:「ハリー・ポッター」では、「勇気」ある生徒が、この寮に組分けされる。

    UPDATE!
    ブログ「冬の散歩道」の緒野雅裕さんが全文を翻訳なさいました。ご好意により以下に転載させて頂きます。緒野さん、有難うございました!



    **************************************************************************

    (…)は僕による補足、<…>はスピーチにおいて原稿と異なる内容を言った箇所です。日本語では意味が通りづらい箇所は、適宜意訳しました。

    ■失敗がもたらす利益と、想像力の重要性■

    J. K. Rowling
    2008年6月

    ファウスト学長、ハーバード・コーポレーション[1] と監督委員会[2] の皆様、教授、ご両親、そして、卒業生の皆様、

    なによりもはじめに、「ありがとう」と言いたいと思います。ハーバード大学が私にこの上ない栄誉[3]を授けてくれたことへの感謝だけではなく、ここ数週間襲われ続けた、卒業式でスピーチをしなくてはいけないことへの恐怖と緊張のおかげで、体重が減ったことへの感謝です。一挙両得[4]ですね!深呼吸をして、赤い旗[5]を横目で見ながら、これは世界で最も頭のよいハリー・ポッターたちの集会<世界最大のグリフィンドールの同窓会>なのだと自分に暗示をかけて、このスピーチを始めたいと思います。

    卒業式でスピーチをすることは、重責です。いや、私自身の卒業式のことを思い出すまでは、そう思って いました。その時の卒業式でスピーチをしたのは、著名なイギリスの哲学者である、B. M. ワーノックでした。彼女のスピーチを思い出そうとしてみたことは、このスピーチを考えるのに非常に役に立ちました。なぜって、私は彼女のスピーチの言葉 を、結局何一つ覚えていなかったのですから!だから、今日の私のスピーチがあなたがたの人生に悪影響を与え、ビジネスや法曹や政治における輝かしいキャリ アを投げ出してゲイの魔法使い[6]になってしまったらどうしよう、などという不安から、すっきりと開放されることができたのです。

    どうです?もしあなたがたが将来、この「ゲイの魔法使い」のジョークだけでも覚えていてくれたなら、私はB. M. ワーノックに勝った、ということです。己の向上のための第一歩は、達成可能な目標を設定すること、ですよね。

    そんなわけで、今日何を喋るべきか、私は頭をひねって一生懸命に考えました。私は自分にこう問いかけました。私は自分の卒業式で、何を聴きたかっただろう。私が大学を卒業してから今に至るまでの21年間に私が学んできたことの中で、大切な教訓は何だったのだろう、と。

    そうして、二つの答えに辿り着きました。(まず第一に、)みなさんの学業における成功を祝うこの素晴らし い日に、失敗がもたらす利益についてお話したいと思います。そして(第二に)、みなさんが「現実の社会」へ羽ばたかんとするこの時に、想像力の大切さを伝えたいと思います[7]。

    これらの話題は、突拍子のない、矛盾をはらんだものと思われるかもしれませんが、どうか少しの間、私の話に耳を傾けていただければ幸いです。

    21歳の頃の私の卒業式は、42歳の今になって振り返ってみると、少しほろ苦い思い出です。私が今のちょうど半分の年齢だったころ、私は自分の夢と、自分に最も近しい人が私にかける期待との間で、悩んでいました。

    私は、小説家になりたいという確固たる夢を持っていました。しかし、私の両親は、そんな壮大な夢はただの楽観的で向う見ずな妄想で、そんなものでは家も買えないし、年金も払えないと言うのです。両親は貧しい家庭環境で育ち、二人とも大学を出ていませんでした。

    両親は私に、実用的な学位を取って欲しいと望みました。一方私は、英文学を専攻したいと思っていました。結局、妥協として、私は、近代語学を学ぶこ とにしました。後から振り返って考えれば、それは誰のためにもならない妥協でした。両親の車が走り去り、角を曲がって視界から消えたとたん、私はドイツ語から逃げ出し、古典文学の廊下へと駆けていったのでした。

    古典文学に専攻を変えたことを両親に言ったかどうか、私は覚えていません。もしかしたら彼らは、私の卒業式の日に初めて気付いたのかもしれません。 彼らにとってギリシャ神話などは、会社の重役になってVIP専用のトイレで用を足すようなキャリアを目指すにあったっては、地球上のあらゆる学問の中で最 も実用性の無いものだったことでしょう。

    もちろん私は、両親の考えを責めようとは思いません。若い頃は、両親が自分の人生を間違った方向へ導くことを責める時期もあるでしょう。しかし、自 分で自分の人生の舵を取れる年齢になれば、全ては自分の責任です。加えて、私に貧乏な生活をさせたくないという両親の願いを、私は批判することができませ ん。彼らはずっと貧乏で、私自身も貧乏でしたから、貧乏はお世辞にもいいものではないと、よく知っています。貧乏は恐怖とストレスを伴います。絶望に駆ら れることもたびたびです。屈辱と困難の連続です。貧乏の底から自力で這い上がったことは誇りになりますが、貧乏自体を美化するのはおバカさんだけでしょ う。

    私がみなさんくらいの歳の頃、私は大学の勉強に熱意も沸かず、ほとんどの時間をカフェに座って小説を書いて過ごし、授業に出ることはほとんどなく、試験に合格するコツを覚えるばかりで、それが私や同級生達の成功の基準でした。

    私は、みなさんが若くて才能があって良い学校を出ているからといって、今まで困難や挫折を全く経験せずに済んだと思うほど馬鹿ではありません。才能 と知性をもってしても、誰も運命の気まぐれから逃れることはできません。私はみなさんが今まで、何ひとつ困難の無い、満たされた、特権的な人生を歩んでき たとは思っていません。

    しかし、みなさんがハーバード大学を卒業するということは、みなさんがあまり失敗に慣れていないということではないかと思います。みなさんは成功へ の欲望に駆られるのと同じくらいに、失敗への恐怖に追われているのかもしれません。実際、最高の学歴を手にしたみなさんが持つ失敗の概念は、一般的な人が持つ成功のイメージとかけ離れたものではないでしょう。

    「失敗」の基準とは最終的には各々が決めるべきものなのですが、そうしなくとも、世の中に流布している基準を当てはめてみることはたやすいでしょ う。そして、そんな通俗的な基準で測ってみれば、私の卒業後の7年間は、手ひどい失敗だったと言えると思います。結婚はすぐに破局し、片親で娘を育てなく てはいけないのに、仕事は無く、現代のイギリスにあって、ホームレスの一歩手前の極限まで貧しい生活をしていました。両親が怖れていたこと、そして私自身 も怖れていたことは、現実になってしまったのです。常識的な尺度で言えば、私が知っている誰よりもひどい失敗でした。

    私はここで、失敗は楽しい、などと言うつもりはありません。あの頃の私の人生は暗いもので、後にメディアが言った「おとぎ話のようなサクセス・ス トーリー」が待っているとも到底思いませんでした。この暗いトンネルがどこまで続くか見当もつかず、そのトンネルの出口に見える光はいつまでたっても幻想 でしかなく、それが現実になることはありませんでした。

    ならば「失敗がもたらす利益」など、どこにあるのでしょう?答えはシンプルです。失敗は不必要なものを剥ぎ取ってくれるのです。私は、自分が本当の 私ではない別の何かなのだと自分を偽るのを止め、持てる全てのエネルギーを、私にとって大事な唯一つの事(小説を書くこと)に注ぐようになりました。もし 私が他のことで成功してしまっていたら、自分が本当にやりたかった事において成功したいという決心は起きなかったでしょう。私は自由になれたのです。なぜ なら、私が最も怖れていたことは既に現実のものとなってしまい、しかし未だ私は生きていて、そして傍らには愛する娘がおり、机の上には古いタイプライター が、頭の中には壮大なアイデアがあったからです。失敗のどん底にあった岩は、私が人生をやり直すための頑丈な基礎になったのです。

    恐らく皆さんは、私ほどの大きな失敗に陥ることはないでしょう。しかし、ある程度の失敗は、人生において避けることができません。何にも失敗しないためには、死んだように及び腰になって生きるしかありません。しかしそんな人生は、元から失敗です。

    失敗によって私は、試験に合格したのでは得られない精神の安定を得ました。失敗は私に、私自身の事を教えてくれました。それは他の方法では学ぶこと ができなかった事です。私は自分に強い意志があり、私が思っていた以上に自分の心は鍛えられているのだと気付きました。そして私には、ルビーよりも価値が ある友達がいることに気付きました。

    過去の失敗から這い上がり、強く、賢くなったのだと知ったとき、人は自分の生きる力を信じることができます。自分自身や友達との関係が逆境によって 試されて初めて、人はそれらを本当に理解することができます。そのような知恵こそが(失敗がくれた)プレゼントであり、私にとってどんな資格よりも価値が あるものなのです。

    もしタイムマシンかタイムターナーが あったならば、私は21歳の頃の私に、幸福な人生とは成功や達成のチェックリストではないということを教えてあげたい。資格や履歴書は人生ではないので す。残念ながら、私と同世代や年上人たちの中にも、それを混同している人が大勢います。人生とは困難で、複雑で、誰もコントロールすることはできません。 それを謙虚に理解しなければ、人生の浮き沈みを生き抜くことはできないのです。

    さて、みなさんは恐らく、私が(今日のスピーチの)二番目のテーマに想像力の重要性を選んだのは、私が人生をやり直す上で、それが大きな役割を果たしたからだと思うでしょう。しかし、それが全てではありません。私は(子供を寝かしつける時の)枕もとのおとぎ話が持つ価値を、息絶えるまで主張し続けますが、しかし私が学んだ想像力の価値とは、それよりももっと広い意味を持つものです。想像力とは、存在しないものを心に思い描き、発明や革新を生み出す、 人間に特有の能力のみを指すのではありません。想像力とは最も変幻自在で驚きに満ちた能力であり、想像力があるからこそ、我々は経験を分かち合ったことのない他人にも共感することができるのです。

    私の人生において最も貴重な経験のひとつは、社会に出て間もない20代前半の頃に得たものです。人生における大発見とも言うべきその経験は、後にハリー・ポッターを書くのにも大きな影響を与えました。その頃の私は、昼休みに職場を抜け出して小説を書きつつ、ロンドンにあるアムネスティー・インターナショナル[8]本部の<アフリカ担当の>調査部で働いて、生計を立てていました。

    私は自分の小さなオフィスで、全体主義政府に抑圧された人々が、発覚すれば投獄される危険を冒して、彼らの国の過酷な実情を告発するために走り書き した手紙を読みました。痕跡もなく蒸発してしまった家族や友達の消息を必死に求める人たちからアムネスティーへ送られてきた、行方知れずの人々の写真も見 ました。拷問の証言も、拷問で受けた傷の写真も見ました。即決裁判や処刑、誘拐やレイプを訴える手書きの目撃証言(が書かれた手紙)も開封しました。

    私の同僚には、政治犯として投獄された過去を持つ人も多くいました。彼らは政府の方針にそぐわない危険な思想を持っていたために、故郷の地から連れ 去られたり、亡命してきたりした人たちでした。私のオフィスを訪ねてくる人の中は、情報提供者や、生き別れた人の消息を尋ねに来た人たちもいました。

    私はあるひとりの若いアフリカ人のことを、決して忘れないでしょう。当時の私よりも若いくらいの年齢だった彼は、故国で拷問を受け、精神を病んでいました。彼はビデオカメラに向かって彼を苦しめた蛮行のことを話したとき、体の震えが止まりませんでした。彼は私よりも30cmも背が高かったのに、まるで子供のように華奢な体をしていました。その後、私が彼を地下鉄の駅まで案内したとき、残虐な行為によって人生を破壊されてしまったこの男は、私の手を優しく握り締め、私の将来の幸せを願ってくれたのです。

    私はまた、空虚な廊下を歩いていたときに突然、背後にある閉じた扉の向こうから聞こえた、苦痛と恐怖に満ちた叫び声を、一生忘れることはないでしょ う。扉が開き、女性の調査員が顔を出して、部屋にいる(叫び声の主の)若い男のために温かい飲み物をすぐにもってくるよう、私に言いつけました。彼が政府に反抗的な発言をした報復として、彼の母親が捕らえられ処刑されたというニュースを、そのとき彼女は彼に告げたのでした。

    私は、誰でも弁護士を立てて公開裁判を受ける権利があり、民主主義の政府を持つ国に生まれてきたという、この信じられないほどの幸運を、20代前半を過ごした職場で毎日かみしめていたのでした。

    私は毎日、人間が権力を狙い保持するため、同じ人間に対して行ってきた悪魔のような仕打ちの数々の証拠を見てきました。やがて、私は悪夢にうなされるようになりました。(仕事で)見たり、聞いたり、読んだりしたことが、夢に出てくるのです。それは文字通りの悪夢でした。

    しかし一方で、私はアムネスティー・インターナショナルの職場で、それまで私が知らなかった人間の素晴らしさも知ったのです。

    アムネスティーでは、今まで拷問されたことも投獄されたこともない何千人もの職員達が、拷問の被害者や囚人のために活動していました。人間が他人に共感できる能力こそが、人々が力を合わせてアクションを起こし、命を救い、囚人を釈放する力になったのです。幸福と安全が保証されているごく普通の人たち が、今まで見たこともない、そして一生会うこともないだろう赤の他人を救うために、大勢集まってきたのです。その一端に私が参加したことは、私の人生の中 でもっとも衝撃的な、そして刺激的な経験となりました。

    人間は、地球上に住む他のいかなる動物とも違って、自分が経験しなかったことをも、学び、理解することができます。人間は他人の心を思いやり、他人の状況を想像する力を持っているのです。

    もちろんこの力は、ちょうど私の小説に出てくる魔法のように、良いことにも、悪いことにも使うことができます。他人を理解したり同情したりするためでなく、人を操りコントロールするために、この力を使う人もいるかもしれません。

    そして、想像力を全く使おうともしない人も大勢います。そのような人たちは、自分の(幸せな)経験だけに浸って、居心地のよい殻の中に安住し、もし 自分が他の人に生まれたらどう感じるだろう、などとは、面倒がって考えもしないのです。彼らは悲鳴に耳を塞ぎ、牢屋の囚人から目を逸らすのです。自分と関係のない苦痛から心を閉ざし、知ることを拒否するのです。

    私はそのような生き方を羨ましく思ってしまうことがあるかもしれません。しかし、彼らが悪夢にうなされる回数が、私よりも少ないとは思えません。狭い空間に閉じこもって生きるのは、広場恐怖症のようなもので、それもまた恐怖をもたらします。好んで想像力を使わずに生きる人は、より多くのモンスターを見ているのではないかと私は思います。彼らはより怯えて生きています。

    さらに重要なのは、他人に共感することを拒否して生きる人は、本物のモンスターになってしまうかもしれないということです。自身の悪と戦うのをやめた人は、無関心のうちに悪と共謀してしまうのです。

    私が18歳の時、得体の知れない何かを求めて駆け込んだ古典文学の廊下の果てで学んだのは、ギリシャの作家であるプルタルコスが書き残した、次のような言葉です。「人が内面で達成したことは、外面の現実をも変える。」

    この驚くべき格言の正しさは、私達の人生の中で、毎日、何千回と繰り返し証明されています。これが意味するところのひとつは、私達が外界との繋がり を断つことは決してできないということ、そして、私達はこの世に存在する限り、他の人たちの人生と触れ合って生きているのだということです。

    しかし2008年度のハーバードの卒業生のみなさん、あなたがたはどのくらい、他の人の人生と触れ合って生きるでしょうか?みなさんの知性、勤勉さ、受けた教育は、みなさんに特別な地位と、特別な責任をもたらします。みなさんの国籍は様々でしょ うが、大多数の人は、これからもこの世界で唯一の超大国(であるアメリカ)で暮らすことになるでしょう。あなたの選挙での一票、あなたの生き方、あなたの 主張、あなたが政府にかける圧力、これら全ては、国境を越えて大きな影響力を持つのです。これはあなたがたの特権であり、あなたがたの責任です。

    もしあなたが、あなたの地位と影響力を使って声なき人のために声を上げるならば、もしあなたが力を持った人だけでなく、力を持たない人にも共感する ことができるならば、そしてもしあなたが、あなたのような地位を持たない人たちのことまで想像できるならば、あなたは(今日卒業式に来てくれた)自分の家族からだけではなく、あなたのおかげで酷い現実をよい方向へ変えることができた何十万、何百万の人たちから、祝福を受けることができるでしょう。世界を変えるのに魔法の力など必要ありません。必要な力は、みなさんに既に備わっています。その力とは、みなさんの想像力なのです。

    私のスピーチも、そろそろ終わりが近づいてきました。最後にみなさんにひとつの希望を授けたいと思います。それは私が21歳の時に、既に持っていたものです。

    私と一緒に卒業式の席に座っていた友人たちは、私の生涯の友になりました。彼らは私の子供の代父母であり、困ったときに助けてくれる人たちであり、彼らの名前を(ハリー・ポッターに出てくる)死喰い人の名前に流用しても私を訴えなかった友人たちです。卒業式の日、私達は大きな友情と、共に過ごした二度と戻らぬ日々の経験によって結ばれました。そしてもちろん、将来友達の誰かが総理大臣に立候補したときに非常に役に立つだろう証拠写真によっても。

    そのようなわけで、みなさんも私と同じような素晴らしい友人に恵まれることを、願って止みません。そして明日になって、たとえ私のスピーチを一言も 思い出せなくとも、私が古の知恵を求めてキャリアの梯子と引き換えに駆け込んだ古典文学の廊下で出会った、セネカという古代のローマ人の次のような言葉 を、是非とも覚えておいてください。

    As is a tale, so is life: not how long it is, but how good it is, is what matters.

    (人生は物語と同じである。重要なのはその長さではなく、その良さであるという点において。)

    みなさんがすばらしい人生を送ることを願っています。

    ありがとうございました。

    [3] J. K. ローリングは、ハーバード大学から名誉博士号を授与された。
    [4] 原文は”win-win situation”、つまり、ハーバード大学もJ. K. ローリングも得をした、という意味。
    [5] ハーバード大学の校章は、赤の盾に”Veritas” (ローマ神話における真実の女神)と書かれたもの。その旗のことだと思われる。
    [6]「ハリー・ポッター」の ダンブルドア校長はゲイだそうです。(くろきさん、情報提供ありがとうございます。)
    [7] 日本語だと分かりづらいが、「現実」 (real) と、「想像」 (imaginary)を対比させている。「現実の社会」は原文では “real world”、直訳ならば「現実世界」。少々大げさに聞こえるかもしれないが、英語ではよく使われる言葉で、時として「辛い、楽しいだけではない、思う通 りには事が運ばない実社会」というニュアンスを伴う。 
    [8] 人権保護を訴える国際的な非営利団体(NGO)。

    (訳:緒野雅裕氏 「冬の散歩道」)


     


     

     

     

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